旅先で起こった不思議な話
もう一つ先輩の話から。
おなじくサークルの冊子に載ってる、ちょっと怖いお話(PG12)
台湾発 山奥の怪!渓谷に彷徨う霊魂との遭遇…
台北から列車で3時間、戦前は多くの日本人移民が暮らした街。そこからさらにバスで2時間ほど行った山奥のとある集落で事件はおきた。
2006年8月下旬、クラブの合宿で台湾を訪れていた僕たち一行は、日も暮れ始めた午後の4時頃、この集落にある唯一の安宿にたどり着いた。
この集落は、観光地として有名なある渓谷の一角にあるのだが、かなりの山奥ゆえ、食堂が数件と、派出所、郵便局が一軒ずつ、宿が2軒ある他は民家もなく、聞こえてくるのは渓谷を流れる川の音と鳥のさえずりぐらい、という非常にさびしい場所であった。
そこでおこった出来事である。
なれない異国の地を旅してきたためか、相当疲れがたまっていたのだろう。宿についてしばらく、僕たちは各自ベッドでゴロゴロしながら過ごしていた。
その時である。
『コンコン…』
と、ドアをノックする音が聞こえた。
ちなみに、僕たちはこの時、男女2人ずつで旅をしており、当然、部屋も男女分かれていた。
僕らはてっきり、女性陣が僕らの部屋を訪ねてきたものだと思い、ドアを開けてみた。
しかし、どうしたことだろう、そこには誰の姿も見当たらなかった。
「おかしいねぇ」
僕らはそんな言葉をかわしながらも、別段気にすることもなく、再び自分のベッドへ戻っていった。
するとである。
『コンコン…』
再びドアをノックする音が聞こえてきた。
「?」
僕らは不思議に思いながらも、再びドアを開けてみた。
しかし、先ほどと同じで、そこには誰も立っていない。「あまりにヒマなもんだから、隣の子らが悪戯しにきたんじゃない?」
そう思った僕らは、隣の部屋へ行き、彼女たちに問いただしてみた。
しかし、彼女たちはそんなこと知らないという。
う〜ん、いったいどういうことだ…。「気のせいじゃないですか?外を通るトラックの振動で揺れたとか」
彼女たちにそう言われたものの、やはり気になる。
たしかにこの集落沿いには、台湾の中央にそびえる山脈を突っ切って、台湾の東海岸の街と西海岸の街とを結ぶ道路が走っており、トラックなど大型車が通ることもあった。
しかし、僕たちの泊まっている宿は、この道路から少し離れた高台の上にある。振動で揺れるとは考えにくい。
「疲れてるのかなあ…」
「きっとそうですよ。それより明日以降の予定考えましょうよ」
疲れている…、まあそういうことにしておこう。
いまいち釈然としないけれども、僕はなるべく気にしないように、みんなとあす以降の計画について話し合った。
しかしである。
『コンコン…』
…。
場は一瞬にして静まり返った。
「いま聞こえた?」
「き、きっとホテルの人ですよ!」
そういうと、彼女は確認をしにドアのほうへ歩いて行った。
「誰かいた?」
「いないですね…」
これはおかしい…。その場にいた誰もがそう感じていた。
すると…
『コンコン…』僕らをあざ笑うかのように、再びドアをたたく音が部屋に鳴り響いた。
再び、後輩の子が確認しに行ってみたが、答えは同じだった。
結局、このドアをたたく音は、僕らが寝静まるまで幾度か聞こえてきたのだった…。
翌日、僕らはこの宿に再び泊まることにした。ノックの謎を解き明かすため、などではもちろんなく、ただ疲れていて移動するのがめんどくさかっただけであった。
ドアをたたく音はたしかに気になるが、別に危害を加えられるわけではないし、まあいいんじゃない?という結論に各自至ったのだと思う。
僕らはそういう連中の集まりだった。
さて、いつまでもホテルにいても仕方がないので、僕は渓谷の散策をしに出かけた。有名観光地というだけあって、この渓谷にはいくつかの遊歩道が設けられていたのだ。
そこで僕は、そのひとつ、高台の崖に作られた遊歩道を歩いてみることにしたのだが、そこは、つり橋あり洞窟あり、さらには小さな滝まであるという、観光用の遊歩道とは思えないくらいスリルのある道だった。僕は旅の疲れも忘れて、思いっきり楽しんでいた。
その時である。
前方に、山奥には不釣り合いな巨大な碑が現れた。これも、観光用のなにかなのかしら?そう思って碑に近づいてみた僕であったが、その碑に書かれてある文面を見て驚いた。そこにはこう書かれていた。
『日本人慰霊之碑』
案内板によると、この渓谷には戦前多くの日本人がこの渓谷に道路を建設するために暮らしていたそうだ。しかしながら、何百メートルという渓谷に道路をつくる難工事。多くの日本人がここで命を落としたらしい。
その彼らを祀る慰霊碑だったのだ。そして、この観光用にしてはスリルのありすぎる遊歩道は、彼らが難工事の末に完成させた道路だったのだ。不思議なことに、この碑を発見してからというもの、ドアをたたく音は聞こえなくなってしまった。
昨日のドアをたたく音。あれは、故郷に帰ることを断たれた彼らからのメッセージだったのかもしれない。
日本から遠く離れた山奥に、自分たちは眠っているんだということを、日本人の僕らに知らせるための…。
興味深いお話なので転載させてもらいました。
そして何を隠そう…僕も現場にいた一人である。
未だに、あの音はなんだったんだろうか?とふと思うことがある。
確かにあのコンコンという音はドアから聞こえてきてた。何度もドアの外を確認したが、そこには誰もいなかった。試しにドアをノックしてみると全く同じ音がする。やはりノックに間違いない。
一回、宿のおばちゃんが掃除に来た時。本物のノックをされたが、どうせまた誰もいないだろうとドアを開けに行かなかったら、おばちゃんに『なんで出てこないの!』と怒られた(笑)聞き分けがつかないくらい似ている。
うーん。
不思議だ。
もし、もう一回、あの町へ行くなら確かめてみたい。と思う今日この頃。